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2023/03/16

今注目のリスキリングとは?企業の導入が必要とされる背景やメリット

2022年10月初旬の臨時国会における所信表明演説で、岸田首相が今後5年間で「リスキリング」支援に1兆円の予算を投じる方針を示しました。

低迷する日本経済の成長を促すには、グリーン・デジタル化といった成長分野を中心に、産業構造の転換を加速する必要があるためです。

今まで別の分野にいた人も新たなスキルを身に付けることで、成長産業での活躍者を増やし、構造的な賃上げを図る目的があるといわれています。

注目度が高まっているリスキリングとは何か、企業がリスキリングを導入するメリットや成功させるためのポイントについて解説していきます。



今注目のリスキリングとは

リスキリングとは、社会人が新しい職業に就くために、または企業内の大幅な変化に対応するために、現在の業務と並行しながら必要なスキルを獲得していくことです。

個人が自主的に取り組むというよりも、社員に新たなスキルを身につけてもらうため、企業主導で働きかけるケースが一般的といえるでしょう。

リスキリングの概要


日本においてリスキリングとは、まだまだ馴染みのないワードですが、欧米では数年前から取り組みが始まっています。リスキリングが初めて提唱されたのは、2018年のダボス会議です。

世界各国の政財界のリーダーや学者、国際機関の高官などが参加する場で、「リスキリング革命」と銘打ったセッションが3年連続で開催され、「2030年までに全世界で10億人をリスキリングする」という宣言がなされました。その結果、欧米の企業では急速に取り組みが広がりました。

遅ればせながら、日本でも有名企業はリスキリングに対して積極的に動き始めています。多くの企業が牽引役となり、研修プログラムや人材育成のための取り組みを行っています。

リカレント教育との違い


日本では、リスキリングより「リカレント教育」という言葉のほうがよく知られているかもしれません。

リカレント教育は、「生涯学習」とも言い換えられ、個人を主体とし、人生を豊かにする学習行為を指すもの。学校教育から離れたあとも個々のタイミングで再び教育を受け、仕事に必要な能力を磨き続けるという考え方です。

リスキリングとリカレント教育は、社会人が再教育を受けるという視点から混同されがちですが全くの別物です。大きな違いは、目的が企業側にあるか従業員側にあるかということでしょう。


リスキリングは、企業の変革に向けて必要な人材を揃えたいという企業側の目的があります。現在の業務から離れることなく、企業に用意されたプログラムなどから継続的に新しいスキルを身につけていきます。

対して、リカレント教育の目的は個人のスキルアップです。企業と教育機関を行き来しながら、自身が生涯働き続けるために必要なスキルを身につけていく方法です。

リスキリングが注目されている理由

経済産業省の発表によると、Google検索において、日本語の「リスキリング」は2020年5月時点で1,470件であるのに対し、2021年2月時点では777,000件と大幅に増加しています。

上記データからもわかるように、リスキリングは非常に注目されています。なぜここまで注目されるようになったのか理由を知ることで、今後の取り組みの参考になるのではないでしょうか。

DX推進に不可欠


リスキリングの理解を深めるにあたって、デジタルトランスフォーメーション(DX)の存在は欠かせません。経済成長のために必須といわれている企業のDX推進。日本は今デジタル庁を設立するなど、国全体でDX推進を図ろうとしています。


その中で、リスキリングによるDX人材育成推進を主導しているのが経済産業省です。2021年2月より「デジタル時代の人材政策に関する検討会」が開始されました。


DX推進によってビジネスモデルや事業戦略が大きく転換する企業もあるでしょう。企業としては、DXに対して戦略を構築すると同時に、それらを扱える人的スキルが必要になります。


そのためには、新たなスキルを習得するリスキリングは必要不可欠な取り組みといえるでしょう。

働き方の変化


数年前からいわれている「人生100年時代」や、2019年に施行された「働き方改革関連法」により、今までの働き方に大きな変化が起こっています。


今や、1つのスキルで与えられた仕事のみをこなす、というやり方で働き続けることは難しくなりました。求められるのは積極的に新しい価値を生み出していく姿勢。時代の変化によって新たに生まれる職種や業務に対応するため、新しいスキルの獲得は必須です。


そこで注目されるのが、複数スキルを手に入れるためのリスキリングです。


年功序列型の雇用を廃止する企業が多いなか、1つの会社に入れば安泰という時代は終焉を迎えています。また、コロナウイルスの流行により、働き方は多様化され、企業寿命や職業寿命の短さも加速しています。会社の将来や個々のスキルアップのために、仕事と学習をセットで考えるリスキリングは、ますます注目されるでしょう。

政府による支援


2022年10月、政府はリスキリングのための支援制度を経済対策に組み込み、人への投資に5年間で1兆円を投じる意向を表明しました。


生産性を向上させ、さらなる賃金アップを生む仕組みが重要であるとの考えにより、学習、転職活動、転職受け入れを支援し、世の中が求めるスキルを持つ人材を増やし、企業から企業、産業から産業へと移動させることが目的です。


この支援策によって、リスキリングを推進する企業はますます増えていくでしょう。

企業がリスキリングに取り組むメリット

ここからは、企業がリスキリングに取り組むことで得られるメリットを5つ紹介します。

新しいアイデアがうまれる


従業員がリスキリングで新しいスキルや知識を習得することは、最新技術の獲得や業務に対する考え方の変化につながり、新たなアイデアが生まれやすくなります。

それらを上手く活用して独創的な発想を取り入れることができれば、新規事業の立ち上げをはじめ、既存事業の拡大やマンネリ化の抑制につながる可能性があります。

目まぐるしく時代が変化する中で、社内に新しい風が吹き込まれるという点で、リスキリングを行う価値は大きいといえるでしょう。

自立型人材の育成できる


企業というものは、どのような人材が在籍しているかで業績が変わると言っても過言ではありません。

上司からの指示を待つことなく、自ら積極的に行動を起こしていく「自立型人材」こそ、企業が求めている従業員の姿ではないでしょうか。

自立型人材を育成するには、従業員の研鑽意欲に応えられるような学びの機会や学習支援制度をあらかじめ準備しておければ上々。キャリアに必要なスキルを学べる環境があり、自らの意思で学ぶ社員が増えれば、自立型人材の育成につながるでしょう。

業務を効率化できる


リスキリングで習得したスキルや知識によっては、業務の効率化に活かすこともできます。

たとえば、今まで人の手で行っていたルーティーン業務などをデジタル化することで、時間が短縮され、ほかの業務にその時間を当てることができるでしょう。

社内の生産性が向上すれば、本来専念すべき業務や新しい事業に時間を費やすことが可能となります。結果、残業が減ったり売上が向上したりといった効果が期待できるでしょう。

従業員のモチベーションが上がる


前述のとおり、業務を効率化できれば生産性の向上につながります。労働時間を短縮しながら賃金は上がる、というより良い待遇も可能になるかもしれません。

会社が提供したプログラムを学ぶことで新たなスキルが身につくだけではなく、待遇もよくなるという良い流れができれば、従業員満足度の向上が期待できるでしょう。

また、リスキリングを通したスキルアップで、従業員の視野も広がるでしょう。日々の業務をこなすだけではなく、学びを続けることによって仕事へのモチベーションアップも大いに期待できます。

採用コストが削減できる


社内でスキルの高い人材をリスキリングすることは、採用のコスト削減につながります。労働人口が減り続けている昨今、新たな人材を採用し育成していくことは非常に難しく、高いコストも発生するためなかなか上手くいきません。

また、前職で活躍していた優秀な人材を採用しても、その能力が転職先である自社において発揮できるかはわからないというリスクを伴います。

一方、リスキリングを活用すれば、既存の従業員を戦力化し、新たな事業へ異動させることで、採用コストは削減できるでしょう。

リスキリングを成功させるためのポイント

企業が従業員のスキルアップを支援するリスキリング。新しいスキルや知識を身につけさせることは、企業にとっても良い効果を生むことがわかりました。


企業としては、学習意欲のある社員の成長機会を逃さず、学びの場をどんどん提供し、リスキリングを成功させる必要があるでしょう。


ここからは、リスキリングを成功させるポイントについて解説します。

リスキリングの目的を定める


リスキリングを成功させるためにまず必要なことは、自社がどのような方向に進んでいくのかという目的を定めることです。

そして、目的のために必要なスキルは何かをリストアップしましょう。同時に、社員それぞれが持つスキルも把握。何が不足しているかを洗い出すことで、自社の弱みや課題が見つかります。

その課題を解決へ導くためのスキルと人物像を設定することは、リスキリングの実現と成功に向けた土台作りになるでしょう。

社員の声を反映させる


社内でリスキリングを取り入れるにあたって、従業員への周知と理解は欠かせません。反対したり意欲的でなかったりする社員が多くいると、リスキリングの導入はうまくいかないでしょう。

また、突然リスキリングを導入したとしても、何をするのか、どんな効果があるのかがわからなければ、従業員は積極的に取り組めず、十分な成果は得られません。

このような事情を踏まえて、リスキリングを導入するためには、社員の声を反映させることがおすすめです。

業務で困っていることや改善したいことをヒアリングし、どんなスキルが必要かを導き出すことができれば、より良いプログラムを実施できるでしょう。

実践と見直しを継続して行う


社員の声を取り入れたプログラムが完成したら、実践に移ります。

ただし、一度のコンテンツ学習や研修で完璧にスキルが身に付くとは限りません。また、プログラム自体の見直しが必要なケースも出てくるでしょう。

学んだはいいけれど、実際に活かせないのであれば意味がありません。単発で終わらせるのではなく、見直しをしながら継続的に取り組んでいける仕組みを作ることが大切です。

まとめ

2022年の「新語・流行語大賞」にもノミネートされたリスキリング。政府の後押しもあり、今多くの企業が取り入れ始めています。

働き方が多様化し、勤労寿命が長くなっている今、従業員のスキルアップを支援できない企業は、他社に後れをとっていくでしょう。リスキリングを活用し、社員の学びに積極的に関わる企業こそが今求められているのではないでしょうか。

リスキリングは、時間も費用もかかる教育方法ですが、長期的な視野で先手を打っておくことで、勝ち組企業としての可能性が広がるでしょう。


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(文:月山なつ)