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2023/03/23

人的資本経営はなぜ重要?4つの実践ステップと企業事例も紹介

人的資本経営とは、人材への投資によって企業価値を高めていく経営手法です。
最近では、2023年3月期決算から上場企業を対象に人的資本の情報開示が義務化されるなど、企業に求められる姿も変化しています。

人的資本経営の優先度が高まる一方で、「具体的に何をすべきか分からない」といった声も少なくありません。人材のマネジメントや育成は、成果がでるまで時間を掛けた取り組みが必要です。

そのため、できるだけ早くから開示に向けた準備を始めていきましょう。

この記事では、人的資本経営の基本知識から具体的な実践ステップまでわかりやすく解説します。ぜひ自社の取り組みに役立ててください。

企業価値を高めるための人的資本経営とは


人的資本経営において、人材は企業にとって最も重要な「資本」であると位置付けられます。
人材価値を最大限まで引き出すことで、中長期的な企業価値の向上につなげる経営の在り方です。

人的資本経営は、これまで「管理」の対象であった人材を「資本」として再定義している点で、従来の経営と異なります。

こうした変革の方向性をわかりやすく説明しているのが、以下の図表です。「Not this」が従来の経営、「But this」が人的資本経営の内容を示しています。

出典:人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~ 人材版伊藤レポート2.0~|経済産業省(p.11)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf

なぜ人的資本経営が注目されているのか


人的資本経営が注目されている背景には、ESG投資への高い関心や多様化する職場環境が挙げられます。

ESG投資とは投資先の選定にあたって、環境(Environmental)、社会(Social)、企業統治(Governance)に対する企業の取り組みを評価する投資活動です。

実際に、人的資本は多くの投資家が重要視している評価項目です。
ESG投資に関連して職場における多様性が推進され、企業の人材構造も変化しています。

女性や外国人、シニア世代の活躍が促進されたり、正社員であっても副業や兼業を認められたりするなど働く選択肢も増えました。こうした時代変化において人的資本経営は、1人ひとりの価値を引き出すのに有効な経営手法として注目されています。

海外における動き


人的資本は長い間企業の非財務情報とされてきましたが、海外では2010年代から情報開示を義務化する動きが活発になりました。欧州と米国における動きを表でまとめています。

<欧州の動き>

年月機関内容
2014年EU(欧州委員会)非財務情報開示指令(NFRD)において「社会と従業員」を含む情報開示を義務付け
2018年ISO(国際標準化機構)世界初の人的資本に関する情報開示ガイドラインISO30414を公開
2021年EC(欧州委員会)非財務情報開示指令(NFRD)の改定案を発表・対象企業の拡大と開示情報の具体化


<米国の動き>

年月機関内容
2019年SASB(サステナビリティ会計基準審議会)改訂版スタンダードを公表人的資本の領域について、重要項目の開示を要求
2020年SEC(米国証券取引委員会)人的資本に関する情報開示を義務化
2021年米国連邦議会上場企業に対する人的資本の情報開示を求める法案が下院を通過

日本でも動きが加速している


2020年に公表された「人材版伊藤レポート」をきっかけに、日本国内でも人的資本の重要性が広まりました。日本政府は人材への投資を新しい資本主義の柱として位置付け、関連した動きを加速させています。

年月機関内容
2020年9月経済産業省人材版伊藤レポート(持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書)を公表
2021年6月東京証券取引所改訂版コーポレートガバナンスコードを公表人的資本に関する開示と取締役会による実効的な監督について追加
2022年5月経済産業省「人材版伊藤レポート2.0」を公表
2022年8月内閣官房「人的資本可視化指針」を公表
2023年1月金融庁「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正案を施行2023年3月期の有価証券報告書から開示を義務化


人的資本経営に必要な「人材戦略」と「情報開示」


人的資本経営を実践するためには「人材戦略」と「情報開示」について十分理解しておくことが大切です。政府はそれぞれの方向性やアイデアを「人材版伊藤レポート」と「人的資本可視化方針」で示しています。

人材戦略のあるべき姿|人材版伊藤レポート


2020年に公表された人材版伊藤レポートは、人的資本経営についての取り組みや、人材戦略に関わる方策を検討した報告書ですその後、2022年には具体的な施策を盛り込んだ「人材版伊藤レポート2.0」が公表されました。

人材戦略における施策は企業によって異なりますが、すべての企業が持つべき視点と要素を提唱しているのが「3P・5Fモデル」です。

以下の図表の通り、3つの視点(Perspective)から自社の人材戦略を俯瞰し、5つの要素(Factors)を踏まえて人材戦略を策定し実行することが求められます。

出典:人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~ 人材版伊藤レポート2.0~|経済産業省(p.13)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf

人材戦略に必要な3つの視点(3P)


人材戦略に必要な視点は、次の3つです。


⚫︎経営戦略と人材戦略の連動
⚫︎As is(現在の姿)-To be(理想の姿)ギャップの定量把握
⚫︎企業文化への定着


この3つは、取り組みを具体化するのに極めて重要な視点です。なぜならこれらの視点を深めていくことが、人的資本経営を実践するステップそのものであるからです。伊藤版人材レポートは、中でも「経営戦略と人材戦略の連動」が最も重要だと結論付けています。

人材戦略に必要な5つの要素(5F)


続いて、人材戦略に必要な5つの要素を見ていきましょう。


⚫︎動的な人材ポートフォリオ
⚫︎知・経験のダイバーシティ&インクルージョン
⚫︎リスキル・学び直し
⚫︎従業員エンゲージメント
⚫︎時間や場所にとらわれない働き方


企業はこれらの要素を踏まえて、人材戦略を実行していく必要があります。動的な人材ポートフォリオを作成すると、社内のどこにどのようなスキルを持った人材がいるのかを把握できるなど、マネジメントに効果的です。

他にも従業員のエンゲージメントを高めるために、学び直しの機会を提供したり、柔軟な就業環境を整備したりするなど、多様な向き合い方が求められます。

情報開示のあるべき姿|人的資本可視化指針


人的資本可視化指針とは、人的資本に関する情報開示の在り方を包括的に整理した手引きです。
ただし情報開示について具体的な定めがないため、企業は独自に判断して情報開示を進めていかなければなりません。

どのような開示ニーズに対応して当該項目を選択していくかを明確にして、開示を進めることが望ましいとされています。

可視化のための具体的な方法


人的資本を可視化するため、具体的に次のような方法が挙げられています。


⚫︎人的資本への投資と競争力のつながりの明確化
⚫︎4つの要素に沿った開示
⚫︎具体的な開示内容の検討


人的資本の可視化は、投資家の関心が開示項目と長期的な競争力との関連性にあることが前提です。そのため企業は情報の開示を通して、自社の経営戦略、人的資本への投資、人材戦略のつながりを明確にしていく必要があります。他にはガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標といった4つの要素に沿った開示構造の提唱。

そして開示内容を検討する方法として効果的なのが、独自のビジネスモデルに沿った項目と企業間の比較が期待される項目のバランスを見て整理していくアプローチです。

参照:​​人的資本可視化指針|内閣官房非財務情報可視化研究会
https://www.cas.go.jp/jp/houdou/pdf/20220830shiryou1.pdf

人的資本経営を実践する4つのステップ


人的資本経営を実践するには、4つのステップで進めていく必要があります。


1. 経営戦略と人材戦略の連動
2. 現在の姿と目指す姿のギャップを把握
3. KPIの設定と施策の考案
4. モニタリングと改善


一貫したストーリーを柱にこれらのステップを重ね、戦略的に情報を開示していくのがポイントです。

ステップ①:経営戦略と人材戦略の連動


最初に必要なのが、経営戦略に基づく人材戦略の策定です。自社の目指すべき姿を明確にする過程で、経営における優先課題が見えてくるでしょう。

課題解決のためには具体的にどのような人材が必要になるかを考えていくと、経営戦略と人材戦略を連動させていけます。

ステップ②:現在の姿と目指す姿のギャップを把握


理想とする目標が明確になったら、次に現在の姿と目指す姿のギャップを把握します。どのような課題を解決すべきか判断するためには、正確な現状把握が欠かせません。

定量的な判断ができるように、データの計測環境を整えておくことも大切です。

ステップ③:KPIの設定と施策の考案


目標までのギャップが把握できたら、どのような施策を実行していくかを考えていきます。

KPI設定においては他者と比較できる共通項目も必要ですが、同時に自社らしさを表現できる独自性を織り込むと良いでしょう。そうすることで、より明確なビジョンの共有にもつながります。

ステップ④:モニタリングと改善


施策を実行したら、必ず効果を検証します。効果検証の方法として、人事データを整理したりエンゲージメントサーベイを実施したりする方法が挙げられます。

目標までの達成度はどうか、施策はうまくいったのか、企業文化への定着度はどうかといった変化の推移をモニタリングすることが大切です。

また検証結果に基づき、目標や施策の見直しをするなど改善につなげていきます。

人的資本経営の企業事例


人的資本経営を実践している企業事例として、旭化成株式会社と双日株式会社の取り組みを紹介します。経済産業省が公表した実践事例集では、この2社を含めた計19社の事例が紹介されているので、ぜひ参考にしてください。

参照:人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~人材版伊藤レポート2.0~ 実践事例集|経済産業省
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0_cases.pdf

旭化成株式会社「KSA(活力と成長アセスメント)」


旭化成株式会社では従業員の意識調査を見直し、2020年度からKSA(活力と成長アセスメント)を導入しました。

独自のエンゲージメント調査によって、企業と従業員の状態を3つの指標(上司部下関係と職場環境、活力、成長につながる行動)で把握しています。

取り組みと成果を見える化することで重要性の高いエンゲージメントを特定。企業と従業員がどちらも成長していける環境づくりに取り組んでいる事例です。

参照:人財|旭化成株式会社
https://www.asahi-kasei.com/jp/sustainability/social/human_resources/

双日株式会社「人材KPI」


双日株式会社は2020年に独自のエンゲージメントサーベイを導入しました。
サーベイデータは、従業員の声として現場の改善につなげたり、経営会議や取締役会で議論を重ねて施策に反映したりしています。

人材KPIの特徴は、外部環境や経営目標など変化に応じて柔軟に見直しや修正ができるように設定されていること。
サーベイデータ活用と動的KPIでのモニタリングによって、企業内での経営側と現場との意見交換が増え、経営戦略と連動した人事戦略を可能にしています。

参照:人材施策特設サイト KPI|双日株式会社
https://www.sojitz.com/jinzai/jp/kpi/

まとめ


人的資本経営の目的は企業価値を高めることです。人材への投資に重きを置きながらも、決して単なる従業員ファーストの手法ではありません。

人的資本経営の本質は、企業と従業員の双方が成長し続けていくのに欠かせないものばかりです。上場企業に限らず中堅・中小企業においても、できることから実践していきましょう。

組織内でキャリア支援のお困りごとがあれば、ミアビータの法人向けキャリア支援サービスをご活用ください。まずはお気軽にご相談ください。


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(文:シャングルー迪子)