interview
2020/02/02

人生100年時代を生き抜くために

キャリアドクター
野津卓也

今から10年前。著書 『キャリアノートで会社を辞めても一生困らない人になる(東洋経済新報社)』を出版。死ぬまでクライアントの面倒をみる主治医=キャリアドクターとして名だたる経営者をはじめ多くのビジネスパーソンに影響を与え続ける野津卓也先生。今回はスペシャルインタビューとしてキャリア界の先駆者である野津先生にお話を伺いました。

これは危険だ、会社と社員の間に意識のギャップ

キャリアドクターの道を歩む前、20年もの間経営コンサルタントとして企業文化の変革に携わってきた。その中で時代が変わり、業界再編により経営者の中には

“人ごと事業を売りたい”

という声も聞くようになる。一方、その会社で働く社員に話を聞くと

“ずっと定年まで会社にいれる”

と思っている人がほとんどだった。
経営者と社員との間に大きな意識のギャップがあることを痛感。

さらに日本は社会保障の問題も抱えており、この先若い人には年金もロクに出ないようになる。

「生涯現役で働かないと路頭に迷うのが目に見えている。会社に依存せず、会社を辞めても社会に通用するようなキャリアを築かないと危険だ。しかしそのようなキャリアを築くためにはどうしたものか。」

と思い巡らすようになった。

キャリア支援の道に進むも、惨敗

そこで、まずはCDA(現:キャリアコンサルタント)の資格を取ることにした。

しかし、テキストの内容では物足りない。アメリカ発の理論ばかりで、あまり使いものにならない。キャリア系の学会に出てみてもピンとこない。

そこでクライアントと対峙して自分なりの回答を出そう。

さらに自分の力を試すべく、どん底のリーマンショックのタイミングで20年間勤めた経営コンサルタント会社を辞め、キャリアの仕事一本に絞ることを決意。

実務経験を積むため、人材会社や大学など20社ほどに履歴書を送った。しかし、結果は惨敗。どこからも採用されず、すべて落とされてしまったのだ。

そこで人材会社のキャリアコンサルタントに相談に行くと、担当者では決まりきったやりとりで話にならず、ついには社長が出てきて、

“あなたに紹介できる会社はありません。”と断られる。

そこでやむなくフリーランスとして独立することに。
しかし、なんの実務経験もない状況では誰からも依頼が来るわけもなく。

それまで多忙の日々を過ごしていたこともあり、ちょうどいい休息時間だとばかりに10時〜17時まで趣味の釣りをしながら、河川や池で本を読んで過ごす日々が1ヶ月ほど続いた。

そんなある日、一本の電話が鳴る。
以前お断りを食らった人材会社から連絡が来たのだ。

1年で1000人のクライアントと対峙

リーマンショックにより失業者が増加。大阪市が期限付きの緊急就労センターを立ち上げることになったので、そこでキャリアコンサルタントとして働かないかというオファーだった。

「来た来た!」と思った。

とにかく多くの実務経験を積むために、一緒になったベテランの相談員には休憩してもらい、受付のすぐ横に立ち来る人来る人すべてを対応。

すると、経営コンサルタント時代の視点も合わせた就労支援が好評となり、リピート者が続出。常に昼食時間も取れないほど5~6人待ちの状態になる。

受付係の人が他の相談員に促しても、野津先生が良いという相談者。
その結果、野津先生だけが予約制にて相談を受けることになる。そして、一年で1000人もの相談者と対峙する中で、なぜこの人たちが失職したのかが見えてきた。

「失職した人のほとんどが、会社に依存、ビジョンなし、キャリアのキの字も知らない人たちだった。そこで、キャリアを築くメソッドを本にしたのが『キャリアノートで会社を辞めても一生困らない人になる』」だ。

キャリアリッチとキャリア貧乏の二極化

世の中には2種類の人がいると野津先生は言います。それは、

<キャリアリッチ予備軍> と<キャリア貧乏予備軍>

果たしてあなたはどちらだろうか?

<キャリアリッチとは>

環境変化に動じることなく、国や企業に振り回されることなく、自分で仕事を生み出し、社会に貢献し、収入を得ている人

<特徴>

長期的で計画的である

明確なビジョンがある

社会や人のために貢献するミッションがある

知識・経験・スキルがある

アイデンティティーがある

<キャリア貧乏とは>

この先、職を失い、食うに困る可能性がある人

<特徴>

短期的でパッチワーク的である

ビジョンがない

給料など表面的なもので仕事を選択している

社会や人のためになっている自覚がない

キャリアや仕事について、絶えずもやもやしている

現代社会では、このキャリアリッチとキャリア貧乏の差が日増しに大きくなり、決定的なものになりつつある。

では、キャリアリッチになるにはどうしたら良いのか?

ライフキャリアに重要な3つの核


「キャリアリッチになるには、“ライフキャリア”を構築する必要がある。ライフキャリアとは、自分に合った、自分らしい働き方を通して、人や社会に貢献し、人や社会から必要とされ、生涯にわたって食べる心配をしなくてもすむキャリアだ。その構築には、3つの核が重要となる。」

それは以下の3つだ。

1. ミッション

ミッション=社会に果たすべき使命とは何か。

自分は何で社会の役に立ちたいのか、という視点だ。

「私は、人は社会や人の役に立つために生まれてきたと考えている。それは、自らの感受性や気づきによって社会をより良くする役割や義務を、それぞれ一人ひとりが持っているということだ。」

人間は、顔も性格も人格も価値観も才能も違う。その違う一人ひとりが、自らの気づきや問題意識をもって、社会をより良くする知恵を出したり行動することで社会が良くなっていく。

「しかし、日本ではみな同じように教育をされ、競争によって個性が活かされていない人が多い。自分の才能は何か、自分の才能をどう使って、社会や人の役に立ったらいいのかを考えることが重要だ。」

2. ビジョン

10年後、20年後どうなりたいか。

仕事だけでなく、趣味や家族とのあり方、いつまで働くかなども含めて

長期的なビジョンを描くこと。

「キャリアとは、自分の望む人生を実現させるためのもの。

ここに直結していなければ、キャリアとは言わない。」

「企業都合のキャリアではダメ。良い会社に入るのが人生の目的ではない。

キャリアを構築していく上で、その会社でビジョン実現のためにどういう専門知識・スキル・経験を身につけるかを優先すべきで、雇用形態で選ぶなんていうのはナンセンス。お金もその後だ。」

3. アイデンティティー

「自分が何者か」を宣言できること。これが「アイデンティティー」である。

さらに野津先生は、アイデンティティーという概念をさらに発展させた、

PI(パーソナルアイデンティティー)という概念を提唱している。

PIとは、

「『自分が何者なのか』ということを、他者との比較、社会の中で位置付けることにより、明確な自己像として統一していること」と定義。

もっとわかりやすく言うと、あなたにとって

自分らしさ

他者との違い

オンリーワン

は何かということでもある。

どんな仕事であっても、そこに自分らしさを活かすこと、他者との違いを出すことで、その仕事を必ずオンリーワンにすることはできる。

これまでの人生を振り返ってみてどうだろうか。あなたのアイデンティーは何だろうか?

「ミッション・ビジョン・アイデンティティーは三位一体。キャリアに悩んでいる人は、この3つが腑に落ちていない。もしくは自分で決めていないから、絶えずモヤモヤと悩むのだ。」

ポータブルスキルを持て

ライフキャリアを実践する上で重要となってくるのが“ポータブルスキル”だと言います。

ポータブルスキルとは、専門知識・スキル・経験を積み重ね、組み合わせることで、このやり方をやればどこにいってもやっていける応用・汎用性のあるスキルのこと。

例えば、英語を話せること自体はポータブルスキルではない、単なるスキル。

どうやったら英語を話せるようになったのか、その“プロセス”こそがポータブルスキルであり、非常に大切な自分だけのノウハウなのだ。

会社に依存している状態では、ずっと不安が付いて回り、会社にしがみつくことになる。
しかし、ポータブルスキルを持っていれば、その不安から解消されて生きることができる。

「もし僕が今ラーメン屋をやれと言われても、そこそこの結果は出せる。なぜなら、ポータブルスキルを持っているからだ。ポータブルスキルを持っていれば、新しいことにチャレンジすることに抵抗も不安もない。」

実際に野津先生は、キャリアを考えていない人たちに違う形でキャリアのことを伝えられないかと、数年前から演劇を始めた。今では劇団の座長を務め、脚本・演出までも行い、新たに小説も書いているという。

さらに仕事以外にも陶芸や絵や写真、ギターやマウンテンバイクなど趣味も多岐にわたり、やりたいことを全てやりながら常に新しいことにチャレンジし続けている。

昨年上演された演劇の風景

キャリア3.0の時代に

本の出版から10年が経った今、野津先生はどう時代を見ているのか?

「時代はどんどん変わっているのに、キャリアに関しての個人の意識はあまり変わっていない。

しかし、ごく一部の人は意識が変わり、自分ができることへの実現性を高めている。これからは、さらにギャップは大きくなると思う。」

そして、今は「キャリア3.0」の時代だとおっしゃいます。

キャリア1.0 = 定年まで働き年金暮らし

キャリア2.0 = 転職しながらさらに高いサラリーをもらう

キャリア3.0 = 自分×会社×社会の視点

さらにこの先には、「キャリア4.0」の時代がやってきているとも。

直観や引き寄せ、潜在意識などロジカルには表すことができない、インテリセンス(インテリジェンスとセンスの造語)を味方につけ、超心理学の範疇でより本質的なキャリアを考える時代がやってきている。

人生100年時代、働き方改革などが謳われているが、みなさんのキャリアへの意識はどうだろうか。このインタビューが改めて自分のキャリアを考えるきっかけになったらと思う。

「自分の人生に影響を与えた」という本が見当たらないからこそ、自分が読みたい本や、人生に影響を与えられるような本を自分自身で書いたのだと思うという野津先生。先生の著書の一部をご紹介します。


取材・文 / 中安加織


キャリアドクター
野津卓也

野津卓也
Career Identity Inc.代表取締役

「PI(パーソナル・アイデンティティ)とライフキャリアを複合させた独自のキャリア3.0理論」を基に、就職・転職・再就職といった単発ではなく、「定年後も通用する普遍的・本質的なライフキャリア支援」を専門とするキャリア・ドクター。個人向け独自セッションプログラムである「ライフキャリアの核&構造化」の構築支援、セミナー・ワークショップ講師、作家(6冊を上梓)として活動している。

 また、仕事以外に楽器演奏、釣り、マウンテンバイク、登山、キャンプ、クラシックカメラによる写真撮影、演劇(劇団に所属)、陶芸、絵画、ミュージカル鑑賞、美術館・博物館・水族館巡り、海外旅行、天体観測、料理、居酒屋巡り、ガーデニングなど趣味が多いことでも知られており、自らライフキャリアを満喫している。